scene7 ラグナと制度 ― 正しい声の完成
非公開の場は、広場よりも静かだった。
厚い石壁。
窓は高く、外の音は届かない。
長机を挟んで、国家の代表と神殿の上位者が並ぶ。
その中央に、ラグナ=セルヴァは立っていた。
拍手もない。
儀式的な高揚もない。
ここは祝福の場ではなく、接続の場だった。
行政官が、書面を読み上げる。
声は抑制され、感情は削がれている。
沈黙の期間。
各地の不安。
解釈の乱立。
統治上の支障。
言葉はすべて、問題整理として提示される。
個人の信仰や感情は、項目に含まれていない。
「あなたの語りは、安定をもたらしている」
神殿側の代表が続ける。
慈愛を帯びた声音だが、内容は明確だった。
「沈黙に意味を与えられる者が、今、必要なのです」
誰も「預言者」とは言わない。
誰も「真理」とも呼ばない。
与えられるのは、役割だった。
公認説話者。
精霊沈黙期における、公式解釈の提示者。
撤回を行わない声。
揺らぎを示さない語り。
国家は、統治のために。
神殿は、信仰維持のために。
理由は違っても、結論は一致している。
――断定できる者が必要だ。
ラグナは、即答しなかった。
内側に、わずかな迷いがある。
精霊の声は、彼にも完全には聞こえていない。
それでも彼は、語ってきた。
人々が安堵するのを、知っている。
曖昧さが恐怖を生むことも、知っている。
「沈黙は試練だ」
その言葉が、どれほど人を支えているかを、
彼は誰よりも理解していた。
理解しているからこそ、
迷いが消えない。
だが――
この場で求められているのは、逡巡ではない。
確信だった。
「あなたの声は、多くを救っている」
救い、という言葉が使われた瞬間、
ラグナの中で何かが静かに定まる。
もし、語らなければ。
もし、撤回すれば。
沈黙は再び意味を失い、
不安が溢れ出す。
それを防げるのが、自分なら。
ラグナは、ゆっくりと頷いた。
その動作は小さく、控えめだった。
だが、それで十分だった。
書面に印が押される。
役割が確定する。
この瞬間、ラグナ=セルヴァは、
一人の語り手であることをやめた。
彼は、
沈黙に意味を与え続けるための
装置になった。
迷いを内側に残したまま。
確信を、外側に供給する存在として。




