scene4 ティエナの位置 ― 正しいが、呼ばれない声
ティエナは、広場の外縁に立っていた。
壇上からも、群衆の中心からも、少しだけ離れた位置。
追い出されたわけではない。
名を伏せられたわけでもない。
ただ――
呼ばれていない。
ラグナの断言が空気を支配し、
エドラスの行政語がそれを補強し、
リュシアの声が意味を与えた。
三つの言葉が重なった時点で、
沈黙は「説明済み」になった。
その事実を、ティエナは肌で理解していた。
誰も彼女を睨まない。
誰も過去の発言を蒸し返さない。
責任を問う声も、訂正を求める声もない。
それは寛容ではなかった。
不要になった者への扱いだった。
彼女は、ラグナの言葉を反芻する。
「沈黙は試練」
そこに、明確な虚偽はない。
人は試されているように振る舞える。
耐えることに意味を見出すこともできる。
だが――
決定的に、何かが欠けている。
(違う)
声に出さず、胸の内で否定する。
(沈黙は、試練じゃない)
精霊の沈黙の質を、彼女は知っている。
それは選別でも、裁定でも、問いかけでもない。
(限界だ)
応え続け、呼ばれ続け、
擦り切れた末の沈黙。
救えなくなった側の沈黙。
だが、その言葉を置く場所は――
もう、存在しなかった。
壇上は埋まっている。
言葉の体系は完成している。
群衆は「納得」という形で静まっている。
いま彼女が口を開けば、
それは補足ではなく、異物になる。
発言権はある。
形式上、彼女はまだ癒し手だ。
だが、影響力はない。
誰も彼女の沈黙を待っていない。
誰も彼女の言葉を必要としていない。
正しさは、否定されていない。
ただ――選択肢から外された。
ティエナは理解する。
ここから先、
癒しは「応える者」にだけ向けられる。
泣かない者は成熟として称えられ、
耐える者は信仰として守られ、
限界を語る声は、意味を持たない。
彼女は立っている。
だが、この場に立つ理由は、もうない。
沈黙の中で、
正しい声が、静かに席を失っていく。
それが排除だと、
誰も気づかないまま。




