scene2 国家の接続 ― 沈黙の行政化
ラグナの言葉が広場に沈んだまま、完全に馴染みきる前に、次の声が重ねられた。
行政監督官エドラス。
国家印章を胸に下げた男は、一歩だけ前に出る。
動きは控えめで、声も高くない。
彼は、熱を持たせない話し方を知っていた。
「聖務官ラグナの言葉について」
「行政として、整理と確認を行います」
それは補足ではなく、接続だった。
「精霊が沈黙している現状は、すでに共有されています」
「よって、我々が果たすべき役割に変更はありません」
人々は耳を傾ける。
彼の言葉は、安心させる速度で並べられていく。
「労働の継続は、試練への応答です」
「休息は否定されません。弱さではなく、必要に応じた猶予として扱われます」
“扱われます”という言い回しが、静かに線を引いた。
それは感情の問題ではなく、制度の範囲であると告げる言葉だった。
「癒しが起きないことについても」
「失敗や異常とは見なしません」
一瞬、ざわめきかけた空気が、そこで止まる。
エドラスは、はっきりと言った。
「現在の状況は、異常ではありません」
その断言は、ラグナの言葉を否定しない。
むしろ、正確に収容していた。
「精霊が沈黙している以上」
「我々は、己の役割を果たすのみです」
沈黙は、もはや対処すべき問題ではなかった。
それは前提条件になった。
癒しがない理由を問う必要はない。
涙が戻った意味を検討する必要もない。
必要なのは、役割を果たしているかどうか。
耐えているか。
働いているか。
信じているか。
国家は、沈黙を問題視しなかった。
問題を「解釈」によって解消した。
誰かが、ほっと息をつく。
誰かが、背筋を伸ばす。
不安は消えていない。
だが、不安は行政用語の中に収納された。
この瞬間、沈黙は――
信仰の言葉と、統治の言葉に、完全に接続された。




