第11章:正しい声は誰のものか scene1 断言の場 ― ラグナの宣言
臨時聖務広場〈裁定の壇〉は、もともと祝祭や条約のための場所ではなかった。
そこは「結論だけが必要なとき」に使われる壇だ。
国家の紋章と神殿の印章が、左右から無言で並び立っている。
それだけで、ここに集められた人々は理解していた。
今日は説明ではなく、確定が与えられる日だ、と。
群衆は静かだった。
ざわめきはない。怒号もない。
あるのはただ、「意味を知りたい」という切実な空白だけだった。
精霊が沈黙している理由。
涙が戻ったのに、癒しが戻らない理由。
自分たちは、間違っているのか。
それとも――足りないのか。
壇上に立ったラグナは、その空白を見渡した。
深呼吸もしない。
祈りの言葉も挟まない。
彼は、最初の一言を、そのまま落とした。
「精霊は、沈黙している」
それは確認ではなかった。
前提の提示だった。
「それは、拒絶ではない」
誰かが息を吸う音がした。
否定されなかったことへの、かすかな安堵。
だが、次の言葉が、その安堵を別の形に変えた。
「――試されているのだ」
その瞬間、広場の空気が定まった。
揺れていた不安が、一点に収束する。
ラグナは続ける。
「精霊は、応えられないのではない」
「我々を見ている」
「耐え」
「働き」
「信じ続けた者だけが――」
一拍置き、断言した。
「再び、呼ばれる」
それは命令ではなかった。
脅しでもなかった。
だが、選別の宣言だった。
沈黙は、もはや意味不明な空白ではない。
それは「意味を持つ苦難」へと翻訳された。
耐える理由が与えられ、
働く目的が与えられ、
信じ続ける方向が示された。
人々の表情が、ゆっくりと変わっていく。
不安は消えない。
だが、不安は「進むべき道」に姿を変えた。
説明を求めて集まった群衆は、
この瞬間、目的を与えられた。
沈黙は、試練となった。
そしてその翻訳は、
揺るぎない断定として、
この街に刻まれた。




