scene7 偽預言者の台頭 ― 確信の提供者
集会の外は、まだざわついていた。
涙を拭いながら歩く者。
言葉を失ったまま立ち尽くす者。
誰もが、同じ場所を向いていない。
その隙間に、声が入り込む。
高くはない。
だが、迷いがない声だった。
「精霊が疲れた?」
人々が、はっとして振り向く。
石段の端。
半円を描くように人が集まり始めている。
そこに立つ男は、台に乗らない。
身振りも大きくない。
ただ、言葉を落とすだけだ。
「違う」
一拍。
躊躇はない。
「精霊が応えなかったのは、
我々が間違っていたからではない」
人々の間に、緊張が走る。
否定ではない。
断定だ。
「信仰が、足りなかっただけだ」
ざわめきが広がる。
誰かが反論しようとして、やめる。
代わりに、耳を傾ける。
男は続ける。
「疲れ切った精霊?
そんな曖昧な言葉で、
責任を曇らせてはいけない」
彼は、不安を否定しない。
涙を、無意味だとは言わない。
ただ――
原因を、単純にする。
「呼び方が、間違っていた」
「敬い方が、足りなかった」
「だから、応えが返らなかった」
一つの線に、すべてを収める。
人々は、頷き始める。
それは納得ではない。
安堵だ。
自分たちが悪かったのなら、
やり直せる。
やり直し方が示されるなら、
迷わずに済む。
男は、撤回しない。
「私が聞いた声は、変わらない」
「精霊は、沈黙などしていない」
彼の言葉は、揺れない。
誰も「それは本当か」と問わない。
断定は、質問を奪う。
遠くで、ティエナはその光景を見ていた。
彼女は、曖昧さを引き受けた。
沈黙を、沈黙のまま差し出した。
男は、違う。
沈黙に、意味を与える。
しかも、それを揺るがせない形で。
精霊が語ったかどうかは、
もはや重要ではなかった。
必要とされているのは、
確信だった。
人々は、少しずつそちらへ流れる。
疲れ切った真実よりも、
立ち直れる物語の方へ。
その瞬間、
対立は静かに形を持つ。
癒し手は、問いを残した。
偽預言者は、答えを配った。
そしてこの街は、
再び「断定する声」を選び始める。




