scene6 信頼の喪失 ― 正しさと信用の分離
涙が収まりきらないまま、集会は続いていた。
誰も声高に責めない。
怒号も、非難もない。
だが、空気は確かに変わっていた。
評議員たちの反応は、割れている。
一人は、深く頭を下げた。
「伝えてくれて、ありがとう」と、形式ではない声で言う。
別の者は、言葉を探しあぐねる。
感謝すべきか、判断すべきか、その基準を失っている。
そして、何人かは――
何も言わない。
視線だけが、ティエナを測る。
その沈黙を破ったのは、市民の一人だった。
責める調子ではない。
怒りも、敵意もない。
ただ、整理しようとする声。
「では……今までの判断は……?」
問いは、続きを持たない。
結論を押し付ける気もない。
だが、その一言で十分だった。
今まで正しいとされていたものが、
“正しかったかどうか”ではなく、
“誰がそう言ったか”という問題に変わった。
ティエナは、答えない。
否定もしない。
肯定もしない。
それは、彼女の役割ではない。
彼女は、精霊の状態を訳しただけだ。
その言葉を、どう価値づけるかは、人の側の判断になる。
だが――
人は、判断を委ねられることに、必ずしも感謝しない。
むしろ、不安になる。
誰かが断定してくれる方が、楽なのだ。
誰かが間違ってくれる方が、
自分は間違えずに済む。
だから、評価は静かに移る。
彼女はもう、
「癒しをもたらした存在」ではない。
「判断を誤った者」
「言葉を翻した者」
――そう記憶され始める。
正しさは、証明された。
だが、信用は失われた。
そしてその二つが、
必ずしも同じ場所に立たないことを、
この街は初めて学ぶ。
ティエナは、広場の中央に立ったまま、
少しだけ孤立していた。
誰も彼女を追い出さない。
誰も、頼らない。
それが、代償だった。




