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scene8 章の締め ― 泣かない子ども
子どもは、泣かなかった。
転んでも、血が滲んでも、声を上げない。
助けを求める視線すら、外に向けない。
それは、強さではなかった。
泣く理由を、
泣く必要を、
泣くことが許される場所を、
ただ、失っていただけだった。
泣くという行為は、弱さではない。
関係を結ぶための、最初の呼びかけだ。
その呼びかけが消えた街で、
精霊は、沈黙していた。
語らなかったのではない。
応える相手を、見つけられなかった。
そして彼女は――
その沈黙を、
「立てている証」だと訳してしまった。
立っていることと、支え合えることは違う。
倒れないことと、救われていることは違う。
その誤訳は、
罰の形を取らず、
誰も即座に傷つけることもなく、
静かに、確実に作用した。
子どもたちから、
泣く未来を奪うかたちで。
風は、今日も街を通り過ぎる。
だが、そこに応える声はない。
――第9章・了。




