scene7 泣かない理由(示唆
ティエナは、目を閉じた。
意識を深く沈め、街全体に残る気配を探る。
かつて感じた、あの微かなざわめき。
――ある。
確かに、残っている。
精霊は去っていない。
完全な不在ではない。
だが、寄り添う場所を失っている。
それは、拒絶ではなかった。
選別でも、罰でもない。
触れられないのだ。
泣くという行為が、胸をよぎる。
痛みを外に出し、他者に示し、関係を結ぶための行為。
泣くことは、弱さではない。
開くことだ。
助けを呼ぶために、心を開く。
その瞬間に、精霊は触れる。
だが、この街では――
誰も泣かない。
感情を内に閉じ、揺らぎを封じ、
自分だけで処理することが「成熟」になった。
閉じた心には、触れる余地がない。
精霊は、そこに踏み込めない。
沈黙は、原因ではない。
結果だ。
精霊が語らないのではない。
人の側が、語りかける形を失った。
ティエナは、ゆっくりと目を開く。
沈黙は、祝福でも拒絶でもなかった。
人と精霊の関係が、静かに断たれた末の、自然な帰結だった。
そして、その構造を決定づけた言葉が、
かつて自分の口から放たれたことを、彼女は否定できなかった。




