scene6 ティエナの自覚(核心)
ティエナは、その場を離れられずにいた。
子どもたちは、変わらず遊んでいる。
転んでも、立ち上がり、また動く。
誰も泣かない。誰も呼ばない。
その光景に、既視感が重なる。
――あなたたちは、もう立てています。
自分の声が、胸の奥で反響した。
間違いではない。
事実として、彼らは立っている。
倒れない。
止まらない。
泣かない。
だが、そこに遅れて、理解が崩れ落ちる。
立っているのではない。
立つことしか、できないのだ。
崩れ方を、知らない。
弱さを示す術を、持っていない。
助けを呼ぶという行為が、選択肢から消えている。
胸の内で、何かが軋む。
これは、祝福ではない。
沈黙が与えた肯定でもない。
――沈黙を、そう翻訳したのは……私だ。
精霊は、何も語らなかった。
肯定もしなかった。否定もしなかった。
それなのに、自分は言葉を与えた。
安心の形をした意味を、押し付けた。
精霊が沈黙した理由が、ようやく輪郭を持つ。
人が立ったからではない。
自立したからでもない。
泣かなくなったからだ。
感情を失い、呼びかけを手放し、
癒しを必要としなくなったのではなく――
必要とする方法を、忘れたからだ。
ティエナは、深く息を吸おうとして、止まる。
風は、ここに来ない。
精霊は、応えない。
沈黙は、祝福ではなかった。
そして、その沈黙を祝福に変えたのは、他でもない。
彼女自身だった。




