第9章:泣かない子ども scene1 静かな遊び場
エル=カナの居住区にある小さな広場は、今日も整っていた。
白い石畳にひび割れはなく、砂も溜まっていない。建物の影がきれいに落ち、風は弱く、暑すぎも寒すぎもしない。
その中央で、子どもたちが遊んでいた。
走る。
積み木を高く積み上げ、崩す。
追いかけ合い、方向を変え、また走る。
動きはある。
だが、音が足りなかった。
笑ってはいる。口元は確かに緩んでいる。
それでも笑い声は小さく、抑えられているかのようだった。
甲高い歓声も、調子外れの叫びもない。
そのとき、一人の子どもが足をもつれさせ、転んだ。
膝が石に擦れ、布越しに赤が滲む。
痛みは確かにそこにあったはずだった。
周囲の子どもたちが、ほんの一瞬だけ視線を向ける。
だが、誰も声を上げない。
誰も駆け寄らない。
転んだ子どもは、ゆっくりと立ち上がった。
膝を見下ろし、汚れを手で払う。
血に気づいても、表情は変わらない。
そして何事もなかったかのように、また遊びの輪に戻っていった。
泣き声は、なかった。
慰めも、叱責も、騒ぎもなかった。
その光景を、誰も不思議だとは思っていない。
大人たちも、通りすがりの者も、足を止めない。
痛みはここで、感情ではなく、出来事として処理されていた。
転んだ。血が出た。立った。終わり。
異常は起きていない。
そう、この街では――誰もが、そう信じて疑っていなかった。




