scene6 疑う者 ― レナ
広場の少し離れたところで、
レナは腕を組んだまま立っていた。
洗濯籠を足元に置き、
腰に体重を預けている。
さっきから、あのエルフを見ている。
見てはいるが、近づかない。
信じていないからだ。
過去に、似た光景を見たことがある。
声高に語る男。
精霊の名を借りた断言。
「選ばれた者だけが救われる」という言葉。
あのときは、楽になった気がした。
あとで、倍の重さが返ってきただけだ。
だから、同じものだと思った。
レナは一歩、前に出る。
逃げるでもなく、期待するでもない。
確認するためだ。
「またそういうの?」
声は尖っていた。
刺すつもりで出した声だった。
「信じてないから」
エルフは、すぐにこちらを見た。
目が合う。
押し付けてこない視線だった。
「信じなくて、いいですよ」
否定も、説得もない。
拍子抜けするほど、あっさりした返答だった。
そのまま、ティエナは手を差し出す。
ハルドのときと同じ距離。
触れない位置。
レナは身構える。
何かが起きると思った。
だが、
起きたのは――呼吸だった。
胸に、空気が入る。
浅く刻んでいた息が、
途中で止まらず、奥まで届く。
レナは思わず、肩を落とした。
「……息が、しやすい」
それだけを言って、
すぐに口を閉じる。
信じたくない。
奇跡だとも、救いだとも呼びたくない。
それでも、身体は嘘をつかない。
レナは視線を逸らし、
洗濯籠を持ち上げた。
「……別に、礼は言わないから」
そう言って、広場を離れる。
歩きながら、
もう一度、深く息を吸った。




