scene6 小さな異変 ― 精霊の距離がさらに遠のく
ティエナは、街の外れに立った。
交易路から外れた、倉庫と倉庫のあいだ。
人の往来が薄れ、声が減る場所。
本来なら、精霊の気配がわずかに溜まるはずの隙間だった。
目を閉じ、息を整える。
風を呼ぶ。
──返事がない。
以前も沈黙していた。
だが、今日はそれと違う。
沈黙が、薄い。
空気はある。
風も流れている。
それでも、
そこに「触れる感触」が混ざらない。
精霊がいないのではない。
拒まれているのでもない。
距離が、伸びている。
呼びかけは届いているはずなのに、
返る余地そのものが、遠ざかっている。
(……近づかない)
胸の奥で、言葉にならない違和感が沈む。
祝福したはずだった。
否定しなかった。
恐怖も、責めも、与えていない。
「あなたたちは立てている」
その言葉は、
誰かを縛るためではなかった。
支えを外すつもりも、
休む権利を奪う意図もなかった。
(正しいことを言った、はず……)
だが、手応えがない。
癒しを行わなかったからではない。
求められなかったからでもない。
“意味”を与えてしまったからだ。
沈黙に、
人の言葉で、結論を置いた。
その瞬間から、
精霊は「語らない存在」ではなく、
「語り終えた存在」にされてしまった。
風が、通り抜ける。
だが、寄り添わない。
ティエナは、
自分の足元に伸びる影を見つめた。
近づこうとして、
知らないうちに、
さらに遠ざけてしまった。
その事実だけが、
沈黙よりも重く、
胸に残っていた。




