scene5 行動の変化 ― 休まなくなる街
変化は、命令の形を取らなかった。
だが、確実だった。
市場では、腰を下ろす商人が減った。
帳簿を閉じる手が、少し早く動く。
水を飲む回数が、気づかれないほどに減っていく。
「まだ立てる」
それは誰かが決めた標語ではない。
だが、いつの間にか、
互いを確かめ合う言葉になっていた。
疲労を訴える声は、減った。
消えたわけではない。
口にされなくなっただけだ。
「問題ありません」
「支障は出ていません」
その言い回しが、増える。
休憩時間は、少しずつ削られた。
最初は五分。
次に、十分。
誰も異議を唱えない。
規則も改められていない。
ただ、
座る者の視線が集まるようになった。
何も言われない。
叱責もない。
だが、帳簿の端に、
評価欄が静かに空く。
立っている者と、
座っている者。
そこに言葉は介在しないが、
差だけが残る。
誰も倒れない。
医務室は、静かなままだ。
担架も、使われていない。
だが、
誰も座らない。
街は、以前と同じように整っていた。
物流は滞らず、
争いも起きない。
ただ一つだけ、
失われたものがあった。
休む、という選択肢だ。
強制はなかった。
禁止もなかった。
だが、
選ばれなくなった瞬間に、
それは存在しなくなった。




