scene2 問われる沈黙 ― 意味を求められる癒し手
その場は、会議と呼ぶには静かすぎた。
交易都市〈エル=カナ〉の評議所。
高い天井と白い壁に囲まれた広間には、
机も演壇もなく、椅子だけが等間隔に並べられている。
誰も上座に立たない。
調停官イセルが、席から一歩だけ前に出る。
声は穏やかで、丁寧だった。
「お時間をいただき、感謝します」
礼儀は尽くされている。
威圧も、試すような視線もない。
周囲には、数名の評議員と市民代表が同席していた。
商人、倉庫管理者、通行監査役。
いずれも、この街が“問題なく機能している”ことの担い手たちだ。
問いは、簡潔だった。
「精霊が沈黙しているのは、どういう意味なのでしょうか」
間を置かず、続く。
「我々は――
今の状態で、正しいのでしょうか」
非難はない。
疑いも、焦りもない。
あるのは、確認だ。
沈黙を、
どう受け取ればよいのか。
精霊が語らないという事実を、
どの棚に置けばよいのか。
彼らは、評価を求めていた。
癒しを施してほしいのではない。
問題を解決してほしいのでもない。
この街は、既に安定している。
争いも、混乱も、悲鳴もない。
だからこそ――
この状態が「正解なのか」を、知りたかった。
ティエナは、すぐには答えなかった。
視線を落とし、意識を澄ませる。
精霊に触れようとする。
返ってくるのは、いつもと同じだ。
沈黙。
拒絶でも、肯定でもない。
反応の欠如。
その沈黙が、
今、この場では「答えを待たれている」。
誰も彼女を責めていない。
急かしてもいない。
それが、かえって重かった。
この沈黙に、
意味を与えるかどうか。
その判断が、
今、彼女に委ねられていた。




