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scene8 章の締め ― 沈黙する街
ティエナは、朝の交易路を歩いた。
荷車は定刻通りに動き、
門は静かに開き、
通行証の確認も滞りなく終わる。
誰も、彼女を呼び止めない。
去る理由を問う者もいない。
残ってほしいと願う声もない。
別れは、摩擦を生まないように整えられていた。
門を出る直前、
一人の商人が、形式通りに頭を下げる。
「ご滞在、ありがとうございました」
それ以上の言葉は続かない。
感謝は示されるが、余韻は残らない。
ティエナは、軽く頷き、街を後にする。
背後で、都市〈エル=カナ〉は、
変わらず機能し続けている。
争いは、なかった。
悲鳴も、なかった。
混乱も、救済も、必要とされなかった。
だからこそ――
精霊は、沈黙していた。
声を拒んだのではない。
呼ばれなかったのだ。
沈黙は、
拒絶よりも深い断絶である。
その断絶は、傷ではなく、完成に近い形をしていた。
ティエナは振り返らない。
この街に、彼女の癒しが残る余地はない。
沈黙だけが、
完全に、整っていた。
――第7章・了。




