scene2 精霊の沈黙
街の中心は、交易都市〈エル=カナ〉の要だった。
倉庫と市が放射状につながり、道は広く、人の流れは計算されたように均等に分配されている。立ち止まる者は少なく、滞留は起きない。都市そのものが、一つの機構として静かに稼働していた。
ティエナは、その中央広場の端に立った。
ここなら、必ず何かが返る。
人の往来、感情の交錯、疲労や焦燥――精霊が反応する余地は十分にあるはずだった。
彼女は目を閉じ、呼吸を整える。
いつもと同じように、無理に引き寄せず、ただ耳を澄ませる。
――風は、あった。
肌を撫で、衣を揺らし、空気は確かに流れている。
だが、そこに混ざるはずのものがない。
精霊の気配が、絡んでこない。
不在ではない。
完全な空白でもない。
いるはずなのに、触れ合わない。
ティエナは、静かに呼びかけた。
声に出さず、名も呼ばず、ただ「そこにいるもの」へ向けて。
返事はなかった。
拒絶もない。
警戒のざわめきも、遠ざかる気配もない。
精霊は、沈黙しているのではなかった。
反応していないだけだった。
まるで、こちらを認識していないかのように。
あるいは、認識する必要がない存在として、通過しているかのように。
ティエナは目を開けた。
広場では人々が行き交い、貨幣が動き、契約が結ばれている。秩序は完璧で、摩擦はない。
だが、その整然とした動きのどこにも、精霊が介在する余地が見えなかった。
精霊は、確かに存在している。
この世界から消えてはいない。
それでも、ここでは――関係が成立していない。
癒す以前の問題だった。
呼びかける入口が、最初から用意されていない。
ティエナは、胸の奥に小さな冷えを感じた。
砂漠領の拒絶とも、学院都市の測定とも違う。
ここは、最初から「接続されていない街」だった。




