第7章:沈黙する街 scene1 整いすぎた交易路
交易都市〈エル=カナ〉へ続く街道は、よく整えられていた。
轍は均され、石畳に欠けはなく、荷馬車は減速する必要もなく門へ向かう。流れは途切れず、滞りもない。そこに焦りはなく、遅延も許容範囲として織り込まれている。
ティエナは、その流れの端に身を置きながら街へ入った。
門前では検問が行われている。
だが、声は低く、手続きは簡潔だ。兵士の動きに無駄はなく、表情も変わらない。警戒している様子はあるが、緊張はない。争いを想定していない態度だった。
通りに入ると、商人たちのやり取りが耳に入る。
価格交渉は行われている。だが、声は荒立たず、語調は一定で、感情の起伏が見えない。
「では、その条件で」
「承知しました」
それだけで話は終わる。
押し問答も、笑い声もない。成立した事実だけが、淡々と次へ流される。
荷を運ぶ者、帳簿を確認する者、倉庫へ指示を出す者。
人は多い。仕事も多い。街は動いている。
それでも、熱がない。
笑顔は向けられる。
だが、それは角度の揃った礼の一部で、喜びの発露ではなかった。声色は誰もが似通っており、驚きも苛立ちも混ざらない。感情は、流通に適さないものとして排除されているようだった。
警備兵は目立たない。
必要がないからだ。争いを仲裁する場面が、想定されていない。問題が起きる前に、起きない形へ整えられている。
街の誇りは、建物でも富でもなかった。
「ここでは、問題が起きません」
そう言われることを、誰もが当然のように受け入れている。
問題がないこと。
それ自体が、完成された状態として維持されている。
ティエナは歩きながら、風に意識を向けた。
流れはある。
だが、引っかかりがない。
整いすぎた交易路は、確かに平穏だった。
同時に、それは――何も芽吹かない土壌でもあった。




