scene7 測定が癒しを削る
測定は、一度では終わらなかった。
条件を変え、被験者を替え、時間帯をずらし、同じ工程が繰り返される。
ティエナは、そのたびに測定台に立ち、風を通した。
求められるのは、同じ反応。
同じ数値。
同じ波形。
彼女は学んでしまう。
どうすればヴィクスが穏やかに反応するか。
どの強さなら過剰にならないか。
どこまで抑えれば、低反応と判定されないか。
精霊の流れが、少しずつ変わっていく。
本来なら、人の状態に応じて揺らぐはずの風が、装置に合わせた形に整えられていく。
風が、整えられすぎている。
乱れがない。
引っかかりがない。
測定には理想的だ。
けれど、その風は、触れているのに、届いていなかった。
被験者たちは口を揃えて言う。
「楽になった気がする」
「悪くはない」
「問題ありません」
言葉は、どれも正しい。
だが、どれも浅い。
精霊は反応している。
数値も動いている。
それなのに、深いところに沈んだ疲れに、風が辿り着かない。
ティエナは、はっきりと気づいた。
観測されること自体が、癒しを変質させている。
救うための行為が、証明のための行為にすり替わっている。
癒しが、誰かの回復ではなく、データの安定を目指してしまっている。
精霊は、否定しない。
だが、応え方を変えている。
装置に従い、枠に収まり、はみ出さない形でだけ、揺れる。
それは、失敗ではない。
成功でもない。
ただ、測定に最適化された癒しだった。
ティエナは、その均質な風の中で、初めて迷いを覚えた。
このまま続ければ、癒しは「できる」。
だが、救えるかどうかは、別の話だった。




