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癒しのエルフ  作者: 南蛇井


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scene3 測定器ヴィクス

精霊測定棟〈ヴィクス〉の内部は、都市の白さをさらに削ぎ落とした空間だった。

壁も床も天井も、色という概念を忘れたかのように淡く、光源の位置すら意識させない均質さがある。円筒状に切り取られた空間は、音を吸い、反射を拒み、声を上げること自体が場違いに思えた。


無音に近い。

完全な沈黙ではないが、音が存在する理由を失っている。


中央に設置された測定台は、台座というより「印」だった。

ここに立て、という意思だけが形になっている。手すりも、拘束具もない。だが逃げ場もない。


「そこに、お願いします」


ミレイアの声が、遠くから届く。

距離は数歩しかないのに、別の階層から話しかけられているようだった。


ティエナは測定台に立った。

足裏から伝わる感触は冷たく、しかし不快ではない。風の流れは遮断されているはずなのに、精霊の気配だけは、薄く、確かに感じられた。


起動音はなかった。

合図もない。


空間の内壁に、光が浮かび上がる。

文字でも絵でもない、数値と波形。緩やかに上下する線と、一定の間隔で刻まれる記号。視覚化された反応が、静かに提示されていく。


「精霊反応値。SRIと呼んでいます」


ミレイアの説明は簡潔だった。


「この数値は、精霊との接触によって生じる環境変動を示します。個人差、場所差を補正した上での相対値です」


波形が一度揺れ、落ち着く。


「正常範囲は、この帯域です」


淡い光の帯が示される。


「これを超えると過剰反応。精霊干渉が強すぎる状態。下回ると低反応。接続が不十分、もしくは断絶に近い」


数値は、正常範囲の中央付近で安定していた。

過剰でも、欠落でもない。


「……非常に、綺麗な値ですね」


研究員の誰かが、思わず漏らす。

そこに感嘆はあっても、救われたという感情は含まれていなかった。


数値は嘘をつかない。

少なくとも、この装置が定義した「反応」については。


ティエナは、浮かぶ波形を見つめながら、微かに首を傾げた。


精霊は、ここにいる。

だが、息をしていない。


ヴィクスは反応を測る。

揺らぎを捉える。

変化を数値にする。


けれど、それが何を意味しているのかは、何ひとつ語らない。


正常値。

安定。

問題なし。


その言葉の裏側で、癒しはまだ、完了していなかった。

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