scene4 最初の癒し ― ハルドへ進めます。
靴職人のハルドは、広場を横切る途中で足を止めた。
理由は単純だった。
足が、重い。
痛みが走ったわけではない。
捻った覚えも、ぶつけた記憶もない。
ただ、前に出そうとした足が、思ったより動かなかった。
「……」
舌打ちも、悪態も出ない。
彼はそういう男ではなかった。
道の端に寄り、作業台の近くに立ったまま、
体重をかけ直す。
それでも、重い。
ハルドは視線を上げ、
初めて、すぐ近くに立つエルフに気づいた。
彼女は、こちらを見ていなかった。
広場全体を眺めているようで、
それでいて、どこも見ていない。
だが、ハルドが一歩踏み出そうとした瞬間、
彼女の視線が、足元に落ちた。
「……少し」
声は小さく、
誰に向けたとも取れない。
ティエナは、手を差し出した。
触れない距離。
指先が届かない位置。
その瞬間、風が通った。
一瞬だけ、
広場の空気が流れを取り戻す。
強くもなく、冷たくもない。
気づけば、もうそこにはなかった。
ハルドは、息を吐く。
それから、もう一度、足を前に出した。
痛みは、消えていない。
長年の疲れも、癖も、そのままだ。
それでも――
「……軽いな」
思わず、口をついて出た。
誰かに言うつもりではなかった。
確認のような声だった。
ティエナは頷かない。
説明もしない。
ハルドはそれ以上、何も言わず、
そのまま歩き出す。
歩調は、ほんのわずかに遅くなった。
だが、確実に、
止まらずに進める重さだった。
周囲の人間は、気づいていない。
靴職人が一度立ち止まり、
また歩き出した――
それだけのことだ。
広場は、何事もなかったように動き続けている。




