scene2 ミレイアとの対面
学院都市リュミナスの研究棟は、外観と同じく白く、音を吸う構造をしていた。
石床に足音が落ちても、反響は短く、すぐに消える。人の存在を長く残さないための設計だと、ティエナは直感した。
案内された一室で、彼女は待たされることなく迎えられた。
「お越しいただき、ありがとうございます」
声は穏やかで、よく整えられている。
研究員ミレイアは、深い色の法衣ではなく、実務用の簡素な衣を着ていた。装飾品はなく、胸元に小さな記録板を提げているだけだ。視線はまっすぐで、警戒も崇拝も含まれていない。
「長旅だったでしょう。まずは、お掛けください」
勧められた椅子に、ティエナは静かに腰を下ろす。
室内には測定器具が並んでいるが、どれも今は沈黙していた。光も音も発していない。使用される前の、無垢な状態だ。
ミレイアは向かいに座り、軽く一礼してから言った。
「先にお伝えします。私たちは、あなたの癒しを否定するつもりはありません」
その言葉に、強調はなかった。
説得でも、予防線でもない。ただの事実確認のような口調だった。
「報告書も拝見しています。王都、砂漠領……いずれも、現象としては一貫性がある。効果は限定的ですが、確かに“回復反応”は起きている」
ティエナは黙って聞いている。
風の流れを読むように、ミレイアの言葉の奥を感じ取ろうとする。
「だからこそ、です」
ミレイアはそこで一拍置いた。
「あなたの行為を、正しく理解したいのです」
視線が逸れない。
敵意も、評価もない。あるのは純粋な関心だった。
「感覚ではなく、共有できる形で」
その言葉が、室内に静かに落ちる。
共有。
測定。
再現。
「精霊とどのように接続しているのか。個人差はあるのか。環境依存性は。副作用は本当に存在しないのか」
問いは多いが、声は荒れていない。
糾弾ではなく、整理だった。
「安心してください。ここでは、あなたの癒しは歓迎されています」
ミレイアはそう言ってから、付け加える。
「ただし――」
その一語は小さかったが、はっきりしていた。
「記録と測定に協力していただくことが、条件になります」
ティエナは、少しだけ目を伏せた。
拒まれてはいない。
追い出されてもいない。
けれど、ここでは癒しは“行為”ではなく、“対象”になる。
「理解されること」は、守られることと同義ではない。
それでもミレイアの言葉には、嘘がなかった。
「あなたを、管理したいわけではありません」
彼女は静かに言う。
「私たちはただ――測りたいのです」
測れるものと、測れないものの境界を。
ティエナは、その境界に立たされていることを、はっきりと自覚した。




