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scene6 シェラの判断
詰所の裏手は、
人の通りが少ない。
巡回の動線から、
わずかに外れている。
シェラは、
そこに立っていた。
偶然を装うには、
位置が正確すぎた。
ティエナが近づくと、
彼女は視線を合わせないまま、
低い声で言う。
「このままいると、
あなたが“問題”になります」
公的な言葉ではない。
通達でもない。
忠告だった。
「処分、
というほどではないでしょう」
一拍、
間を置く。
「でも、
報告書には残ります」
残れば、
次は管理対象だ。
管理対象は、
例外として扱われる。
例外は、
排除される。
シェラは、
肩越しに、
巡回路を確認する。
誰も、
こちらを見ていない。
「次の巡回まで、
少し時間があります」
指で、
地面を示す。
「この裏道を通ってください。
門も、
今は閉じません」
命令ではない。
だが、
選択肢は一つだった。
ティエナは、
すぐに理解する。
「ありがとう」
礼は、
簡潔だった。
シェラは、
答えない。
感謝を、
受け取る立場ではない。
制度は、
何も変えない。
現場も、
変わらない。
それでも、
個人を、
一人、
逃がす。
それが、
彼女にできる
唯一の救済だった。
シェラは、
背を向ける。
振り返らない。
助けた事実は、
記録に残さない。
非公式であることが、
この選択の条件だった。




