32/127
scene3 拒否の論理
「不要だ」
ガルドの声は、
低く、
即座だった。
間は、
挟まれない。
「癒しは不要だ」
言い直す。
確認ではなく、
確定だ。
ティエナの手は、
そこで止まる。
風は、
生まれない。
ガルドは、
立ち上がらない。
机越しに、
彼女を見る。
距離は、
制度の距離だった。
「ここは、
管理されている」
帳面を、
軽く叩く。
「疲労は想定内だ。
過剰になれば、
配置を替える」
癒しは、
その表にない。
「回復は、
判断を鈍らせる」
それは、
持論だった。
楽になれば、
人は止まる。
止まれば、
全体が乱れる。
乱れは、
責任になる。
ガルドの言葉は、
整っている。
矛盾はない。
制度としては、
正しい。
だが、
その声は、
わずかに硬い。
癒しを受けることは、
自分が誤っていたと
認めることだ。
管理が足りなかった。
配分が甘かった。
見積もりが、
間違っていた。
それを、
自分自身に
向けることになる。
ガルドは、
それを許せない。
癒される立場に、
立てない。
立ってしまえば、
全てが崩れる。
だから、
拒否する。
冷酷だからではない。
自分を、
否定しないために。
「不要だ」
三度目の言葉は、
命令だった。
癒しは、
ここに入れない。
それが、
彼の論理だった。




