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scene2 癒しの申し出
管理詰所の扉が、
軽く叩かれた。
合図は、
形式的だった。
「入れ」
ガルドは、
顔を上げない。
扉が開き、
一歩分の空気が動く。
熱を連れてくるほどではない。
だが、
外の乾きとは違う気配が、
わずかに混じった。
ティエナは、
中に入る。
歩幅は小さく、
音を立てない。
詰所を、
見回さない。
視線は、
人に向く。
ガルドの前で、
立ち止まる。
「現場を、
見ました」
それだけ言って、
間を置く。
報告ではない。
評価でもない。
ただ、
見たという事実。
「ここは、
風が溜まっています」
言葉は、
低く、
平らだった。
良し悪しを、
含まない。
ガルドは、
帳面を閉じない。
だが、
ペンは止まる。
溜まる、
という言い方が、
気に障った。
滞留。
淀み。
管理不全。
どれも、
彼の仕事の失敗を
指す言葉だ。
ティエナは、
それ以上、
踏み込まない。
手を、
少しだけ上げる。
「少し、
通してもいいですか」
許可を、
求めているようで、
求めていない。
条件も、
期限も、
説明もない。
それは、
提案ではなく、
存在の表明だった。
ガルドの視線が、
初めて上がる。
彼女を見る。
命令ではない。
説得でもない。
それが、
最も警戒すべき形だった。
管理できないものは、
介入になる。
この静かな申し出は、
対話ではなく、
侵入として、
立ち上がり始めていた。




