scene4 ティエナの介入
採掘場の外れに、
風が一つ、
立ち止まった。
砂を巻き上げるほどの強さではない。
ただ、熱を逃がす余地を探すような、
細い流れだ。
ティエナは、
そこに立っていた。
現場の内側に、
足を踏み入れない。
線を越えない。
それでも、
空気は変わる。
彼女は、
目を閉じ、
息を整える。
精霊の動きが、
極端に鈍い。
重い。
沈んでいる。
「……少しだけ」
誰に向けたともつかない声で、
そう呟き、
手を上げた。
風を、
通そうとした。
その瞬間、
硬い声が割り込む。
「止めろ」
監督官ガルドだった。
彼は、
一歩前に出る。
その位置は、
命令の距離だ。
「ここで癒しは不要だ」
言い切りだった。
理由は、
続かない。
不要だから、
不要。
ティエナは、
手を止めた。
風は、
生まれかけたまま、
散る。
「疲れているように、
見えました」
それは、
説明ではない。
ただの、
事実だった。
ガルドは、
首を振る。
「疲労は、
管理している」
「ここでは、
癒しは管理外だ」
善意は、
考慮されない。
結果だけが、
問題になる。
癒しは、
回復ではなく、
介入だ。
介入は、
秩序を乱す。
ティエナは、
それ以上、
何も言わなかった。
踏み込まない。
説得しない。
ただ、
一歩、
下がる。
風は、
現場に届かなかった。
砂漠領〈サル=アム〉では、
癒しは、
救いではない。
許可なき侵入だった。




