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scene3 ナジュの恐怖
ナジュの足が、
わずかにもつれた。
砂の上で、
つまずいたわけではない。
身体の内側が、
一瞬、空白になった。
手に持っていた籠が、
傾く。
周囲の音が、
遠のく。
仲間が、
咄嗟に腕を伸ばした。
支えようとした。
それだけだった。
だが、
ナジュは振り払った。
「触るな」
声は、
掠れていた。
立ち直ろうと、
無理に背を伸ばす。
膝が、
笑っている。
それでも、
座ろうとしない。
「大丈夫だ」
「まだ、いける」
誰に向けた言葉か、
分からない。
仲間が、
低い声で言った。
「休め。鐘は鳴った」
その瞬間、
ナジュの顔が歪んだ。
恐怖だった。
痛みでも、
疲労でもない。
「……休むのが、怖い」
思わず、
こぼれた。
口を塞ぐように、
自分の唇を噛む。
休めば、
記録に残る。
記録は、
評価になる。
評価が下がれば、
配置が変わる。
配置が変われば、
戻れない。
助けられることは、
見られることだ。
見られることは、
弱さになる。
弱さは、
処分の前兆だ。
だから、
癒しは、
罰に近い。
楽になることは、
危険だった。
仲間は、
手を引っ込めた。
誰も、
それ以上、
何も言わない。
作業の音が、
すぐに戻ってくる。
ナジュは、
震える脚で、
再び籠を持ち上げた。
助けは、
ここでは、
救いではなかった。




