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scene2 監督官ガルド
監督官ガルドは、
採掘場を歩いていた。
歩いているが、
急がない。
誰よりも遅く、
誰よりも正確に、
列と列の間を進む。
彼の視線は、
人を見ていない。
工具の動き、
運搬の間隔、
音の途切れ方。
作業の「流れ」だけを、
拾い上げていく。
一人、
動きの鈍い鉱夫がいる。
腕が下がるまでの時間が、
他より半拍遅い。
ガルドは、
帳面に印をつけた。
原因は分かっている。
過労だ。
この現場では、
誰もが限界の少し手前で
使われている。
だが、
それは異常ではない。
「配置を替えろ」
短く、
命じる。
鉱夫は何も言わず、
別の列へ回される。
空いた穴には、
補充が入る。
新人か、
別区画から回された者か。
流れは止まらない。
誰かが、
癒しの話をした。
最近、
王都で噂になっている、
あの力のことだ。
ガルドは、
一瞬だけ顔を上げた。
そして、
はっきりと言った。
「癒せば、働ける時間が短くなる」
それは、
疑問ではなかった。
回復は、
余力を生む。
余力は、
休息を要求する。
休息は、
生産を止める。
ここでは、
その連鎖は不要だ。
癒しは、
回復ではない。
生産性を、
変動させる要因だ。
だから、
検討する価値がない。
ガルドは、
再び帳面に視線を落とし、
現場を歩き続けた。
止まらない砂漠の中で、
彼もまた、
管理という名の動力だった。




