scene2 市井の広場
王都の中心から一本外れた通りに、広場がある。
地図に名はあるが、誰もその名を呼ばない。
王宮前でもなく、大聖堂の影にも入らない。
祝祭の行列が通ることも、演説台が据えられることもない。
ただ、生活の途中にあるだけの場所だった。
井戸が一つ。
古い石で縁取られ、何度も修理された跡が残っている。
その周囲に、小さな屋台が並ぶ。
焼き菓子、乾いた果実、安物の布切れ。
修理屋の作業台には、靴底や金具が無造作に置かれている。
どれも、ここでなくてもいいものばかりだ。
人々は立ち止まらない。
水を汲み、代金を払い、壊れた物を預けて、すぐに去る。
「広場に行く」のではない。
「通り道だから、ついでに寄る」。
それだけの理由しか、この場所にはなかった。
声はあるが、集まらない。
人はいるが、群れにならない。
誰も見回さず、誰も期待しない。
王都の喧騒は、ここでは少しだけ薄まる。
だが、静かになることはない。
荷車が脇を通り、修理屋が金属を叩く。
井戸の滑車が軋み、水音が短く響く。
それらはすべて、作業の音だった。
祈りの音でも、祝福の前触れでもない。
この広場では、何かが起きる前提が存在しない。
だからこそ、
何かが起きても、誰も気づかない。
人々は用事を済ませるためにここに来る。
終われば、去る。
留まる理由は、どこにもない。
――本来ならば。




