scene5 公式な申し出
市井の広場に、
神殿の使節が来たのは翌日だった。
外套の裾に施された紋章は控えめで、
威圧するためのものではない。
それでも、通りすがりの人間は足を止める。
ここは、祈りの場ではない。
それだけで、違和感は十分だった。
ティエナは、井戸のそばに立っていた。
いつもと同じ位置。
人の流れを遮らない場所。
使節の一人が、
静かに声をかける。
「エルフの方。
少し、お話を」
命令ではない。
だが、断る前提でもない。
「昨日、この広場で、
回復反応が確認されました」
言葉は、すでに整理されている。
「市民の安全のため、
状況を把握する必要があります」
ティエナは、相手を見た。
警戒していない。
だが、踏み込んでもいない。
「協力をお願いしたい」
それが、使節の言い方だった。
続けて、条件が示される。
「まず、登録を」
名と所属、
活動内容の申告。
「次に、活動場所の指定」
神殿区、あるいは
認可された広場。
「そして――」
一拍置いて、使節は言う。
「神殿監督下での癒し」
それらは、提案として語られる。
だが、拒否された場合の想定も、
すでに含まれている。
管理。
統制。
責任の所在。
使節の表情は穏やかだった。
敵意も、脅しもない。
「市民を守るためです」
それは、正しい言葉だった。
ティエナは、すぐには答えない。
広場を見渡す。
井戸、水桶、屋台。
人々は、用事を続けている。
彼女は、その中に立ったまま、
静かに口を開いた。




