124/127
シーン7:章の締め ― 声がなくても、語る者
精霊は、もうここにいない。
かつては、言葉の背後で、
確かに“応え”が揺れていた。
肯定か、拒否か、あるいは疲弊か。
いずれにせよ、言葉は何かに触れていた。
今は、それがない。
真実を保証する声は消え、
正しさを裏打ちする反応も存在しない。
それでも――
言葉だけは、止まらなかった。
預言台の上で、
ラグナの声は続いている。
意味があるかどうかとは無関係に、
終わらせないために、語り続けている。
誰も、その内容を厳密に信じてはいない。
だが、誰も耳を塞がない。
沈黙が訪れれば、
次に何が起きるか分からないからだ。
翻訳者が沈黙すると、
世界は空白に耐えられなくなる。
だから、語り手が必要になる。
それが真実かどうかではない。
正しいかどうかでもない。
ただ――
沈黙に耐えられない。
その一点だけが、
言葉を生み続ける。
声がなくなっても、
語る者は生まれる。
それは希望ではなかった。
救済でもなかった。
不安が、自分を守るために作り出した、
仮の声だった。
そして世界は、
その声に、また耳を傾け始めていた。




