シーン7:拡大する精霊災害 ― 世界の自己修正失敗
精霊災害は、点では終わらなかった。
最初は一地方の異常だった。
次に、同時多発となり、
やがて――連動し始めた。
癒しの精霊が留まり続ける土地では、
回復したはずの者が、なぜか前へ進めなくなる。
傷はない。
だが、生活が再開できない。
畑は耕されず、
道は修繕されず、
ただ「癒され続けている場所」として停滞する。
別の地域では、逆の現象が起きた。
癒しが過剰に重なり、
精霊同士が干渉し合い、
回復が暴走へと転じる。
熱が生まれ、
光が渦を巻き、
治癒だったはずの力が、周囲を押しのけ始めた。
それでも――
世界は壊れなかった。
代わりに、
別の動きを見せた。
どこからともなく、
「役割」が生まれ始める。
あの人なら、きっと何とかしてくれる。
あの剣を持つ者が、状況を終わらせるだろう。
誰も名乗っていないのに、
期待だけが先に集まる。
精霊の暴走地帯では、
必ずと言っていいほど、
一人の人間が中心に据えられ始めた。
力を振るったわけではない。
判断を下したわけでもない。
ただ――
「物語に向いている」という理由だけで。
同時に、対極も膨らむ。
癒しが集まりすぎた場所の周縁で、
拒絶の概念が濃くなる。
奪う存在。
壊す存在。
対立の受け皿。
誰かが救われるなら、
誰かが敵でなければならない。
世界は、
翻訳を失った代わりに、
別の“終わらせ方”を探し始めていた。
それは理屈ではない。
判断でもない。
最も簡単で、
最も早く、
最も多くの者が納得できる形。
――物語。
英雄が現れ、
敵が定義され、
戦いが起き、
勝敗によって「完了」が宣言される。
精霊は、それを拒まない。
世界も、止めない。
なぜなら、
それは過去に何度も成功した修正だからだ。
翻訳が引いていた「ここまで」という線の代わりに、
世界は今、
物語という枠を用意し始めている。
誰かが剣を取るのを、
誰かが悪になるのを、
世界そのものが、待っている。
まだ核は見えない。
だが、方向は定まった。
世界は今――
翻訳の代わりに、
「語られる結末」を要求し始めていた。




