scene3 癒しは資源か
沈黙を破ったのは、
行政官の中でも若い男だった。
「一つ、視点を変えてもいいでしょうか」
年長者たちが視線を向ける。
咎めるでも、促すでもない。
「回復反応が確認された。
それ自体は、事実です」
彼は言葉を選びながら、続けた。
「市井の広場は、
労働者の動線上にあります。
そこでの疲労軽減は――」
「効率が上がる」
別の行政官が、先回りする。
若い男は頷いた。
「欠勤が減る。
作業速度が落ちにくくなる。
結果として、街は回る」
神殿役人の一人が、眉をひそめる。
「癒しを、労働のために使うと?」
「“使う”というより、
配置の話です」
言い換えだった。
だが、意味は変わらない。
「治安の面でも同様です」
若い行政官は、資料を示す。
「疲労が蓄積した区域ほど、
口論や衝突が増えています。
回復反応が安定して供給されれば、
予防になります」
神殿役人たちは黙って聞いている。
否定はしない。
だが、賛同もしない。
「……管理できれば、街はもっと回る」
その言葉が、
会議室に落ちた。
誰かが、紙をめくる音を立てる。
別の者が、椅子の背にもたれる。
癒しは、
救いではなく、
資源として計算され始めていた。
「問題は一つです」
年長の役人が口を開く。
「制御できるか」
その問いに、
若い行政官は即答しない。
制御できないものは、
利用できない。
そして、
利用できないものは、
危険と見なされる。
会議室には、
もう一つの前提が生まれていた。
癒しは、
管理されるべき力である。
その認識は、
誰の反対もなく、
静かに共有された。




