シーン6:エルネの言葉 ― 回復の別定義
朝。
灰の原に、薄い光が差す。
夜の冷えがまだ残っているが、空気は昨日より柔らかい。
集落はいつも通り静かで、何かが回復したことを告げる兆しはない。
エルネは、外に出ていた。
昨日より、動きがいい。
関節のぎこちなさは残っているが、立ち上がるまでに時間はかからない。
歩幅も、ほんの少しだけ広い。
ティエナは、それを見て気づく。
癒しを使えば、もっと早く、もっと確実に楽になったはずだ。
だが今、目の前にあるのは「改善」ではなく、「継続」だった。
エルネは薪を抱え直し、短く息を整える。
「……昨日より、今日は動ける」
それだけを事実として口にする。
誇りも、安堵も、評価も含まれない声。
少し間を置いて、彼は続けた。
「それで十分だ」
ティエナは言葉を返せない。
否定も、肯定も、必要ないと分かってしまったからだ。
完治ではない。
元に戻ったわけでもない。
それでも、今日を始められる。
昨日の延長線上に、無理なく立てる。
エルネは、それ以上を求めていなかった。
「生きられる」という基準。
倒れないことでも、痛みが消えることでもない。
続けられること。
明日へ、途切れずに渡っていけること。
ティエナは、ようやく理解する。
癒しが与えるのは、結果だ。
だが、回復とは――
結果ではなく、時間だった。
彼女は何も言わず、エルネの隣に立つ。
その距離に、精霊はいない。
それでも、生活は進む。




