シーン4:ミナの視点 ― 癒さないことの自然さ
ミナは、少し離れた場所から二人を見ていた。
灰色の地面に小石で線を引き、何かの形を作りながら、ちらりと視線だけを向ける。
エルネが腰を下ろし、
ティエナが水を渡し、火の調子を見る。
風は動かない。
精霊の気配もない。
ミナは、それを「足りない」とは思わなかった。
「今日は、治さないんだ」
独り言に近い声だった。
責める響きも、確認する緊張もない。
ティエナは一瞬、動きを止める。
説明の言葉が喉元まで上がる。
――できる。
――でも、選ばない。
その理由を並べることはできた。
けれど、それはこの場には過剰だった。
「うん」
短く答える。
ミナはそれ以上、何も言わない。
「そう」とも言わない。
ただ、小石を集め直し、遊びに戻る。
転がし、並べ、崩す。
治さないことは、問題にならなかった。
疑問として、残らなかった。
ミナにとってそれは、
雨が降らない日があるのと同じだった。
ある時もあれば、ない時もある。
必要なら呼ぶ。
必要でなければ、呼ばない。
理由を聞くほどの出来事ではない。
ティエナは、その背中を見ながら理解する。
癒さないという選択は、ここでは説明を要しない。
正当化も、弁明も、教義もいらない。
ただの、日常の一部だ。
次の世代にとって、
癒しは「必ず起きること」ではない。
起きなくても、世界は壊れない。
その自然さが、
静かに、この場所の価値を確定させていた。




