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シーン2:申し出 ― 癒しを期待されないこと
ティエナは、炉の火を見つめたまま口を開いた。
視線を合わせないのは、意図的だった。
「……楽になる方法は、ある」
断定でも勧誘でもない、曖昧な言い方。
癒しという言葉を使わなくても、エルネには伝わる。
エルネは一度、動きを止めた。
膝に置いた手を外し、息を整える。
すぐには答えない。
否定も肯定もせず、ただ少し考える時間を取る。
その沈黙に、緊張はなかった。
選択肢を吟味する、ごく日常的な間だった。
やがて、エルネは小さく首を横に振る。
「今日はいい」
声は穏やかで、理由を伴わない。
続けて、薪の積まれた方へ顎を向ける。
「それより、薪を割るのを手伝ってほしい」
命令ではない。
頼みごとだ。
ティエナは、胸の奥で何かがほどけるのを感じた。
拒まれたのではない。
癒しが退けられたのではなく、
選ばれなかっただけだ。
この集落では、癒しは特別な答えではない。
切羽詰まった救済でも、判断の基準でもない。
必要になったら使うもの。
使わなくても済むなら、今日は使わないもの。
それだけの位置に、静かに置かれている。
ティエナは頷いた。
「分かった」
彼女は斧を取りに行く。
精霊を呼ばず、言葉も添えず。
灰の原に、乾いた薪の割れる音が響き始めた。




