表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒しのエルフ  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/127

第14章:癒さない選択 シーン1:小さな不調 ― 癒せると分かっている朝

灰の原に朝が来る。

夜の冷えを含んだ灰色の地面が、わずかに光を返し始める時間帯だ。


低炉の集落は静かだった。

火はすでに起こされ、煙も上がっている。人の営みは滞りなく続いているが、そこには精霊感応灯も、祈りの標識もない。ただ、手と火と時間だけがある。


エルネは炉のそばで、いつもより動きが遅かった。

腰を落とす動作に一拍の間が入り、立ち上がるとき、関節が軋む音がする。


「……少し、来てるな」


独り言のように呟き、膝に手を当てる。

痛みを隠そうともしないが、訴える気配もない。


ティエナは、その様子を見ただけで分かった。


——癒せる。


精霊の気配は、この土地ではほとんど感じ取れない。

呼びかけても、応答は返らない。

それでも、彼女の内側には確信があった。


呼べば、通る。

ほんのわずかだが、楽にはなる。


完全な回復ではない。

だが、関節の重さは和らぎ、動きは軽くなるだろう。


それが分かるからこそ、ティエナは動かなかった。


彼女は一歩、踏み出しかけて止まる。

手を伸ばせば、いつもの癒しの所作に入れる距離だ。


内側で、短い言葉が浮かぶ。


——できる。


次の言葉が、間を置いて続いた。


——だが、それが最善かは別だ。


エルネは、こちらを見ない。

痛みを理由に、誰かを呼ぶこともしない。


この朝は、癒しを必要とする「事件」ではない。

生活の中に含まれる、小さな不調だ。


ティエナは、手を下ろした。


癒さない理由は、無力だからではない。

迷っているからでもない。


選べる状態で、選ばない。


その前提は、すでに整っていた。


灰の原の朝は、何事もなかったかのように続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ