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シーン8:章の締め ― 灰の原
灰の原には、沈黙すらなかった。
語る声も、応える声も、最初から想定されていない場所。
だから、沈黙を祝福と誤る余地もなかった。
ここで癒しは効かなかった。
精霊は現れず、奇跡も起きない。
だが、その不在を理由に、
誰かが測られることはなかった。
癒されないことは、欠落ではない。
失格でも、試練でもない。
ただ、そうであるという状態として、受け取られている。
人は、癒しがない世界でも生きている。
呼びかける力を持たなくても、
応答を期待されなくても、
関係を結び、時間を重ねている。
一方で、癒しがある世界では、
人は壊れることがある。
力そのものではなく、
それに与えられた意味によって。
沈黙に価値を与え、
癒しに序列を与え、
応えを評価に変えたとき、
世界は歪み始める。
問題は、力ではなかった。
癒しでも、精霊でもない。
それをどう呼び、
何を証明したことにするか――
その言葉だった。
灰の原は、何も語らない。
だからこそ、
何も奪わなかった。




