シーン7:ミナとの静かな時間 ― 関係の別形態
灰の原の朝は、境目が曖昧だった。
夜が終わった合図も、始まりを告げる音もない。
ただ、空の色が少しだけ変わる。
ティエナは、癒しをしなかった。
それは諦めでも、判断でもなかった。
ここでは、そうする理由がなかった。
ミナは灰の地面にしゃがみ込み、指で線を引いていた。
意味のない円、途切れた道、すぐに崩れる形。
ティエナはその隣に座り、同じように灰をなぞる。
「それ、何?」
ミナが尋ねる。
「わからない」
ティエナはそう答えた。
訂正も、導きも加えない。
ミナは一度だけ瞬きをして、
「ふうん」と言い、また灰に戻る。
二人は並んで座り、
何かを完成させようとはしなかった。
出来上がった形が、風で崩れても、誰も直さない。
少し離れたところで、エルネが薪を割る音がする。
規則正しいが、急がない音。
それもまた、目的を主張しない時間だった。
ミナが咳き込み、肩をすくめる。
ティエナは手を伸ばしかけて、止める。
代わりに、背中に触れる。
温度が伝わる。
それだけだ。
何も回復しない。
熱は下がらず、傷も消えない。
だが、何も奪われない。
ミナは身を引かない。
期待も、落胆もない。
精霊は現れない。
風は吹くが、応答は含まない。
それでも、時間は進む。
関係は、そこにある。
癒しではない。
救済でもない。
だが、断絶でもなかった。
ティエナは初めて、
「何かをしていない自分」が、
誰かの隣にいることを許されていると知る。
灰の原では、
力を差し出さなくても、
言葉を翻訳しなくても、
関係は成立する。
その事実だけが、
静かに、ここにあった。




