scene2 責任という言葉
会議室は、広かった。
だが、窓は小さく、
外の光は十分に入らない。
長い卓を挟み、
王都神殿の役人と行政官が向かい合っている。
祈具は置かれていない。
代わりに、書類が積まれていた。
一人の神殿役人が、報告書を指で叩く。
「……市井の広場での件だ」
声は低く、感情がない。
「原因不明の回復反応。複数名」
読み上げられた言葉は、
すでに“評価”を終えている。
行政官の一人が、すぐに応じた。
「効果が出た、ということですね」
「そこではない」
神殿役人は即座に遮る。
「誰が、許可したのか」
その言葉が、
会議室の空気を定めた。
別の役人が続ける。
「無登録です。
神殿にも、行政にも、記録がない」
「統制外、という理解で?」
「そうなる」
沈黙が落ちる。
誰も、回復した人間の顔を思い浮かべていない。
話題は、すでに人を離れている。
行政官が紙をめくる。
「仮に、ですが。
副作用が出た場合は?」
神殿役人は答えない。
代わりに、別の者が口を開く。
「責任主体が不明です」
それは問題だった。
事故が起きた場合、
訴える先がない。
補償も、説明も、
誰も引き受けない。
「前例は?」
「ありません」
「なら、なおさらだ」
前例がない、という事実は、
危険と同義だった。
誰かが小さく呟く。
「放置すれば、模倣が出ます」
「管理されない癒しが、常態化する」
「秩序の問題だ」
言葉が重なり、
同じ方向へ収束していく。
癒しが効いたかどうかは、
もはや議題ではない。
重要なのは、
誰が管理し、誰が責任を負うか。
「無登録の癒しは、例外だ」
神殿役人が結論づける。
「例外は、統制されなければならない」
誰も反論しなかった。
会議は、その前提で進む。
広場で風が通ったことは、
ここでは、ただの数字と文言に過ぎない。




