5 無理な話
「私、容姿だけで好きになったとは言っておりません。真面目に話を聞いていられたところも見ていましたし、扉を開けて誘導していただいたところも素敵だと思いました」
まだ出会って初日。中身を見ろなんて無理な話だがいきなり好きまで言われたのは驚きもあり、そんな軽く言ってしまうんだとショックだった。
「僕も出会ったばかりで人間性を見てほしいなんて言いません。でも、安田さんは出会ったばかりの男にすぐ好きだなんて言ってしまうのですか?」
俺は安田の目を見つめた。
「えっと…そんなことないです。あ、でもさっき言ってしまいましたね…でも、さっきのはその…」
安田は目を泳がせながら焦る。
「…すみません。返答に困ることを言ってしまいましたね」
俺は苦笑いをした。
「私もいきなり好きって…やっぱり違いましたよね」
俯いて小さくなる安田。
(両親からの圧力もあるだろうし、早めに付き合ったほうがいいからこんなこと言ったんだろうな)
無理なことを聞いてしまった罪悪感がしてきた。
「でも、安田さんは僕と付き合うことを前向きに考えていらっしゃるのですね」
「はい。それはもちろん…」
変なことを言ってしまって申し訳ない。
「僕達、両親からの圧力もありますからね。安田さんが僕のことを好きだと言っていただいただけ良かったです」
「…っ!」
安田はゆっくりと目を見開いた。
「私は純粋に三井さんのことを好きだと思いましたよ」
小さな声で言う安田。
「三井さんは私が嫌いですか」
突然の疑問に俺は戸惑った。
「え、いや嫌いではないけど…」
「そうですか」
安田は安堵した顔をした。
「良かった…!」
安心したように笑う安田。その笑顔はとても可愛いと思った。