6 別れ際まで可愛いのは何
「今日はさようならだね」
夕食もごちそうになったので帰ろうと玄関に向かった。
「いつもなら泊まるって言うんだけど、制服も何もないし無理だよね」
俺は苦笑いした。
「来てくれてありがとう。住菱くんにドレス見てもらえてよかった」
俺が靴を履いていると、隣で瑞穂も靴を履こうとした。
「外までいいよ。寒いんだし、ここまでで…」
「私がいっしょに外に出たいの。車乗るまで見届けるから」
首を振って答えられたが、外に出すのは申し訳ない。
「さようならのキスしてあげる」
「!?」
耳元で囁かれて身体が震えあがった。
「まあ、そういうことなら…」
玄関だとメイド達の目線が気になるのだろう。
「うぅ…」
扉を開ければ、瑞穂が身震いした。
「無理しなくていいんだぞ?」
「無理はしてないから。ちょっと寒いだけ」
震える手で俺の腕をぎゅっと掴んできた。
外に出て、瑞穂を抱きしめながらキスをして回れ右させた。
「はい、冷えないうちに戻る!」
「早いよ~」
扉を開け、背中を押して中に入るよう促す。
「ありがとう。また明日」
「また明日。おやすみなさい」
瑞穂は少し不満そうにしながらも小さく手を振った。
扉が閉まったのを見届けて、道路に止まっている車の方へ足早に向かった。
「住菱くん!!」
大声で呼ばれて振り返ると、扉から瑞穂が顔を出していた。
そして、唇に指を当てると俺に向かってキスを投げかける。
(か゛わ゛い゛い゛っ゛!!)
心臓に手を当てて悶えると、瑞穂が笑いながら手を振ってまた扉を閉めた。
(別れ際まで可愛いことしてくれるなぁ!!)
ずるずると身を引きずりながら車に乗り込んだ。
「今の瑞穂さん見ました?」
「え…申し訳ございません、見ておりませんでした」
思わず運転手に瑞穂さん可愛いと自慢してしまったじゃないか。