4 薔薇と鈴蘭
「このドレス、本当可愛いよね。私もお気に入り」
ドレスのスカートをつまんで愛おしそうに見つめる瑞穂。
「瑞穂も花の匂いするからすごい合ってる」
「香水の匂いわかる?」
「わかるよ。俺だってつけてるし」
おそらく薔薇の香水だろう。華やかで上品な香りがほんのり漂っている。
「住菱くんはすずらんだよね!」
瑞穂はにっこりと笑った。
「よくわかってるね」
「わからない理由ないでしょ〜。好きな人の匂いだし」
手を後ろで組んで俺の顔を覗き込んだ。
「近くで見てもほんと綺麗…」
「たくさん褒めてくれるから私も嬉しいなぁ」
瑞穂は満足気に笑った。
「でもね、このドレス着てると寒い!」
俺ははっと我に返った。
「そうだよね、肩出てるし…」
暖房がついているみたいだけど、デコルテが曝け出た格好は寒そうだ。
「部屋のほうが暖かいから行こうよ」
「うん」
瑞穂の後に続いて瑞穂の部屋に向かった。
「階段上がるの大変?」
ドレスの裾を持ち上げる瑞穂に心配になって聞いた。
「大丈夫…だけど、そうやって聞くってことはエスコートしてくれるのかな?」
にっこり笑う瑞穂に手を差し出した。
「ありがとう」
瑞穂の歩幅に合わせてゆっくり階段を上がって行った。
「着替えるね」
「ドレス姿見れなくなるのは名残惜しいけど」
部屋の扉の前で立ち止まって苦笑いを浮かべた。
「本番はパーティーだから」
瑞穂の手が俺の顔の方に伸ばされた。
「…!あっ」
慈しむ目が急に見開くと、目線が俺から外れた。
「き、着替えるから!」
「まっ…!」
勢いよく扉を開けると、素早く中に入って行ってしまった。
(無理させてる…)
少し前にあんなことを言ってしまったから。今のはすごくもったいないことをさせてしまった。