8 考え込んだとき
「言ってくれてありがとう。嫌なことあったらすぐ言ってほしい」
「嫌では決してないんだけど…」
俺は苦笑いした。
「そうだよね、住菱くんは本当に嫌なことは口に出さないからね。まだその程度だったから言ってくれたんだよね」
「そう、かもな…」
瑞穂はそっと離れた。
「でも、本当に嫌なことがあったときは態度とか発言とかに出るから気づくことはできるけど…そこまでいかれると私も聞いていいことかわからなくなるからあまりそうなってはほしくない」
瑞穂は気づくのが早い。自分が自覚する前に変化に気づかれるくらいだ。ただ、そこまで考え込んでいる時は話したくなくなっているし、聞いてほしくないと思っていることがほとんど。
「もし、瑞穂が俺の異変に気づいたら寝かせてほしい。寝ると忘れることってよくあるじゃん?瑞穂ならすぐに気づいてくれると思うから強制的に俺をベッドに連れて行ってくれ」
「そっか…うん、わかった」
頷く瑞穂の姿はとても信頼できると思った。
「そう思うとさ、瑞穂って考え込むような性格してないよね。あ、悪気はないよ」
「考え込むことか…」
瑞穂は顎に手を当てた。
「自慢するつもりはないけど、ずっと幸せだからなのかも。中学生の頃は硝樺さんが居たし、今は住菱くんやいろいろな人が居る。すごく恵まれているんだなって思うよ」
「果たして、本当に幸せいっぱいだったのかポジティブな性格なのか」
俺は苦笑いした。
「人のことあまり信用してないからかな。何言われても私には効果ないってことだよ」
「なんか意外」
「住菱くんもわかるでしょ。前にも言ってたじゃん、どれだけ持て囃されてもそれは本当ではないって」
「ああ、そういうことか」
納得してしまうのも変な感じだが。
「だから、気負う必要がなかったんだよ」
「そうだな」
俺は頷いた。