8 子ども
「財閥跡継ぎの男の子だと、自然とあんなことができるんだね」
「なんていうか…あるじゃん!おとぎ話であるでしょ!そういうの求めてるかと思ったんだよ!」
慌てたながら必死に言葉を探した。
「そこまでさせるつもりはって言ったはずなのに、続けたのは住菱くんだよ」
瑞穂は可笑しそうに笑った。
「じゃあ、してほしくなかったの」
俺は不貞腐れながら言った。
「それは違う。住菱くんはすごいなって思ったよ。本当、かっこいい」
瑞穂が柔らかく微笑んだので、思わず目を見開いて見惚れてしまった。
「住菱くんこそがおうじさまだよ。ちょっと冗談が多いけど、そんなところも素敵なおうじさま」
「あー!一言余計なのが気に入らないな!」
すかさず指摘すると、瑞穂は可笑しそうに笑った。
「完璧じゃないから"おうじさま"なんだよ」
「どういうことだ?それ」
瑞穂は目を閉じてくすくすと笑った。
「何かと拙いところがあるのも好きだよ。態度だけは立派なのに、どこか幼くて可愛いんだから」
「幼い?」
俺が眉をひそめると、瑞穂は頷いた。
「私達もまだまだ子どもだよね」
「実際子どもだし。あー早く大人になって結婚したいなー」
瑞穂は目を細めて口元をほころばせた。
「いっしょに大人になろうね」
「うん」
すると、瑞穂は指輪を愛おしそうに見つめた。
「この指輪が結婚指輪になって大人になったことを証明させる時まで、瑞穂とは過ごしたい」
瑞穂は呆けた顔で何度か瞬きをしてから微笑んだ。
「大人になってからも一緒に過ごすよ」
そう言って、左手の小指を立てて俺の前に出した。
「もちろん」
俺も左手の小指を出して、瑞穂の指に絡めた。その指の隣には、キラリと輝く銀色の指輪がはめられていた。