5 私だけのおうじさま
「大丈夫。大丈夫だから…!」
しばらくすると、瑞穂は立ち上がった。
「じゃあ、行くか」
「う、うん」
瑞穂の手を取って部屋を出た。
(ずーっと黙っているんだよな…)
駅でも電車を降りてからも瑞穂は俯きがちに歩いて口を開かなかった。
(ここまで動揺されるとは思わなかったな…)
単純に喜ばれると思った。指輪を着けさせてほしいなんて言われたら、おとぎ話のように跪いて着けさせたら乙女は喜ぶと思ったんだ。
俺の部屋に入ると、瑞穂はすぐさまベッドに腰かけた。
「住菱くん…あ、あの…」
瑞穂がかすれた声で言い出した。
「寝たいって言ってたよね?いいよ」
「う、うん…」
瑞穂はブレザーやらリボンを外して寝転がった。
「住菱くんは…寝ないの?」
「え、いいの?」
恥ずかしがっているからいっしょに寝てくれないだろうと思っていたので驚いてしまった。
「うん」
布団で口元を隠しながら頷いた。
(瑞穂がいいなら…いいのかな…?)
自分から言い出すくらいだから寝てほしいのだろう。俺もブレザーとネクタイを外して瑞穂の隣に寝転がった。
「はぅ…」
瑞穂は布団で完全に顔を隠してしまった。
(こんなんで眠れるのだろうか)
瑞穂から顔を背けながら目を閉じた。
「住菱くん、あのね」
瑞穂が話し始めたので、思わず目を開けてしまった。
「すごく、嬉しかったの。嬉しすぎて…動揺しちゃってるだけ」
「喜んでくれたなら良かった」
安心して全身から力が抜けた。
「住菱くんは、私だけのおうじさま」
「…そうだね。俺は瑞穂だけだよ」
瑞穂は枕に顔を埋めて恥ずかしそうにしたので、背を向けてこれ以上恥ずかしがらないようにした。
「お、おやすみ」
「おやすみ」
布団をしっかりと被ってぎゅっと目を閉じた。
(可愛すぎて困る…)
気づけば俺も動揺して鼓動が速くなり、全身が布団を被らなくてもいいくらい熱くなった。