8 奥手なカップル
「何もしないでどうやって付き合ってたんだよ」
「いや、そんなことしなくてもお付き合いはできるでしょ」
店に入って落ち着いてから話し始めた。
「手くらいは繋げるだろ」
「硝樺さんに触れることなんて簡単にできないよ…」
顔を赤くして目を逸らされた。
「硝樺から繋いできたりしないのか?」
「されたこともないね」
「意外だな」
郁助からできなくても硝樺からできそうな気がするのに…。瑞穂には積極的だったのに不思議なこともあるもんだ。
「硝樺さんも男性相手だと奥手なのかな?」
瑞穂も不思議そうにした。
「なんか、お前達がデートしてるとこ見てみたいな。こっそり覗きに行きたいくらい」
「や、やめてよ…!覗くなら、僕も住菱が安田さんとデートしてるところ見るよ!」
「いいよ。むしろ、お前は俺達を見て勉強すれば?」
頬杖をついて、にやりと笑ってみせた。
「べ、勉強なんて必要ないし。僕達には僕達のペースがあるの」
「へ〜そうか」
照れる郁助に思わず笑みがこぼれてしまう。
「住菱くんは郁助さんを冷やかしすぎだよ」
「そうか?まあ、これ以上唆すのは良くないか」
瑞穂に言われて大人しく姿勢を正した。
「でも、進展あったら教えてくれよ?褒めるから」
「う、うん…」
郁助は恥ずかしそうに頷いた。
「二人はさ…」
躊躇いがちに言い出した郁助。
「どうしてそんなに仲が良いの…?」
俺と瑞穂は顔を見合わせた。
「大好きだから」
「大好き…?」
郁助に向き直ると、首を傾げられた。
「僕だって、硝樺さんのことだ、大好き…だよ」
「もっと自信持って言ってみろよ」
恥ずかしそうに言う郁助の目を見つめた。