7 今までで一番奥手な男
「硝樺さんとの付き合い方か…月に何回かお出かけしてるよ」
「家には行ったことあるのか?」
「それが…まだなんだよね」
郁助は苦笑いした。
「今までで一番奥手な男が現れたな」
「奥手って…いいでしょ!僕の付き合い方なんだから」
顔を赤くしてそっぽ向かれた。
「硝樺さんに呼ばれたりしないのですか?」
瑞穂が不思議そうに聞いた。
「硝樺さんから家に来てほしいとは言われたことないですね…家に行くって話をそもそもしたことないし…」
「話してみればいいんじゃないか?」
「でも、いきなり家なんて…心の準備が…」
郁助は胸元を抑えて目を逸らした。
「めちゃくちゃ奥手じゃねぇか」
「だって、家ってプライベートな空間だよ!?緊張するでしょ!」
勢いよく言われて思わず笑ってしまった。
「二人はどれくらいまで距離を縮めたんだ?」
「どれくらいって…どういうこと?」
首を傾げられたので、少し考えてから例を挙げた。
「キスしたとか手繋いだとか耳に息吹きかけたとかいろいろあるだろ」
「耳に息吹きかけたは特殊過ぎるのでは?」
「ん?何か言った?」
瑞穂が小声で何か呟いたので聞き返してみた。
「いや、なんでもないよ!」
瑞穂は慌てた様子で首を振った。
「?」
俺もよく聞こえなかったので、首を傾げることしかできない。
「あいにく、全部したことないよ」
郁助が顔を背けながら言った。
「まじで言ってる!?」
思わず声が大きくなってしまった。
「もっと詳しく話聞きたいから寄ってかない?」
カフェの前で立ち止まり、指を差した。
「い、いいけど…」
小さく頷いた郁助を見て、カフェに向かって歩き出した。