1 普通は間接ではなく直接
「へぇ〜また泊まったんだね、瑞穂ちゃん」
月曜日、教室に入るとなぜか弥生が俺の席に座っていた。
「何偉そうに人の席座っているんだよ」
脚組みに腕組みをして、背もたれに背をつける弥生の姿を見てため息をついた。
「瑞穂ちゃんが来るの遅い時点で察したから。せめてもの反抗心」
「そうか。退け」
鞄を机に置いてしっしっと払いのける仕草をした。
「はいはい」
弥生が呆れながら立ち上がった。
「瑞穂ちゃん、あの後泊まったの?」
「う、うん」
瑞穂が苦笑いしながら頷いた。
「でも、今日も三井さんと一緒に来たってことは昨日も泊まったんでしょ」
「…うん」
詰め寄る弥生に瑞穂は苦笑いする。
「何この二人…ついに同棲始めたの…!?」
「それがまだなんですよ~まだ住んでくれないの〜?」
にやにや笑いながら瑞穂を見た。
「約束したでしょ。まだだめよ」
「!?」
人差し指を立てると、俺の唇に押し当てた。
「あ、これで間接キスだね」
わざとらしく触れた部分を自分の唇に当てる瑞穂。
「朝から教室で何やってるの!?この二日間で一体何が…!?」
「いや、特に変わったことしてないから!!」
顔を手で覆い隠す弥生に誤解を解こうとしたら、瑞穂は可笑しそうに笑った。
「これくらい、私達にとって普通だよね」
「普通は間接キスなんてしないだろ」
にやりと笑う瑞穂に呆れ気味にため息をついた。
「普通は間接じゃなくて直接だろ」
「直接を普通と言えるのもすごいと思うけどなー…」
弥生は苦笑いした。
「住菱くん、おもしろーい」
「どうしたんだ…?」
「つまんなーい」のノリで「おもしろーい」と言う瑞穂に苦笑いしながら首を傾げた。