4 泣くなよ硝樺
「言われなくたってわかるでしょう?結婚も決まっているような方を好きになるなんて我儘で迷惑でしかないですわ」
「じゃあ、なんで言ったの?」
「あなたを諦められないからですわ…」
また硝樺は泣きそうな顔をした。
「そうか」
俺は頷いた。
「決して郁助さんが悪い人ではありませんわ。前も話した通り、結婚だって考えました。でも、考えれば考えるほどあなたを思い出してしまいます。だから…いっそのこと話してしまおうと思いました」
「…とは言われても、俺にできることなんて」
俺は腕組みをした。
「いいのですわ。私はあなたに何かしてほしいなんて思っていません。聞いてもらえただけで私はいいのですわ…」
硝樺は俯いた。
「なんか、答えにくいな。正解がわからない」
俺は苦笑いした。
「あなたっていつも何を考えて生きているんですの?」
硝樺は呆けたように言った。
「何を考えてって…何考えているんだろうな?」
俺は苦笑いした。
「あなたみたいな人、会ったことがないですわ。まさか、何も考えていないなんて言わないですよね?」
硝樺は眉をひそめた。
「何も考えていないって言われたら何も考えていないかも」
「意味わからないですわ…」
硝樺は吹っ切れたように笑った。
「やっと笑ったな」
「え…?」
俺を見て驚いた顔をした。
「なんかよくわからないけど、泣かれたら困ると思ってたから。お前が俺のことどう思っていようと俺にはどうしようもないというか…」
「私って本当に馬鹿ですわ…」
「ほら、そういうのやめろって」
暗い顔をする硝樺の頬をつついた。