1 昔、思っていたこと
最近、飛鳥の様子がおかしいと思う。
「昨日の夜、何か言ってた?」
「えっ?な、何も?」
俺が眠れない時、隣から飛鳥と彼氏が話している声が聞こえた。
(夜更かしして話しているんだな…)
俺はずっとそう思ってた。
「え、別れた?」
「うん。もっといい人見つけるね」
そう言ったらまたすぐに彼氏ができた。
(新しい人とも夜までしゃべってるんだな)
俺は、飛鳥は頭も良くて美人だからよくモテるんだろうと思ってた。
「もう別れたの?」
「うん。なんか、あんま好みじゃなかった」
何度も付き合ったり別れたりを繰り返していて異常なほどモテるんだと思ってたけど、違うことに気がついてきた。
(飛鳥って気持ち悪いな。軽く付き合う男もだけど)
成長とともにわかってきたことで俺は飛鳥のことを嫌いになりかけた。
でも、飛鳥は随分と楽しそうだった。小さい頃から真面目だったので好きなことが見つかったなら、いいと思ってた。
「僕が跡継ぎ?」
「飛鳥にはこの家を任せられないと思ったんだ」
父さんにそう言われて気がついた。やっぱり良くないことだったんだって。俺が、おかしいと思った時から飛鳥のことを止められたら。
「わかりました。立派な跡継ぎになってみせます」
小さい頃から飛鳥が跡継ぎになると思ってた。飛鳥なら絶対なれると思ってた。ずっと努力してきたあの姉が、任せられないと言われてしまうほど変わってしまった。
でも、俺も父さんに跡継ぎを任せられた時には変わっていた。あどけない満面の笑みに俺の心は奪われていた。生き生きしてる飛鳥のように俺もなりたいから。結局、俺は飛鳥の真似ばかりだ。